Thursday, January 17, 2008

カーティス・ボタニカルマガジン II


ウイリアム・カーティスは「カーティス・ボタニカルマガジン」以前に「ロンドン植物誌」(Curtis Flora Londinensis)というのを出版しました。文字通りに、ロンドンと近郊の植物が原寸大で描かれており、貴重なものですが、どうも商業的には成功したと言えなかったようです。そののちの1787 二月に発行されたのがカーティス・ボタニカルマガジン。発刊の目的は「ロンドン植物誌」と違い、他国の植物を紹介することでした。その後一時中断したり、雑誌名が変わったことがありますが、2008年の現在も刊行されています。


「カーティス・ボタニカルマガジン」は四期に区切られています。詳しくいえば、7期でしょうが、最近の物は収集の的にならないようです。二期までのものはUSDAのコレクションで検索できます。最初期の発行者はウイリアム・カーティスで(1787ー1800)、彼に代わり刊行を受け継いだのはジョン・シムスです(1800ー1826)。ジョン・シムスののちは、ウイリアム・ジャクソン・フッカー (1827-1865) 、ジョセフ・ダルトン・フッカー(1865-1904)の父子によって刊行されました。


一、二期の代表的な画家はシデナム・エドワードでしょう。1787年~1815年間で、ボタニカルマガジンに1700以上の原画を提供したといわれています。ボタニカルマガジン以外では、PantologiaやRees's Cyclopaediaでも彼の作品を見ることができます。1815年にジョン・シムスと画料を巡るいざこざで袂を分かち、ライバル誌のThe Botanical Registerを起刊。1819年に死去するまで、原画を提供しています。ちなみに、三期、四期を代表するウォルター・フッド・フィッチも原画の報酬が原因で、ボタニカルマガジン/キューガーデンと関係を絶っています。


ここで紹介するのはムスカリのプリントです。ムスカリというと普通は青紫か、白色系のものですが、図に見られるように、黄色いものもあります。この微妙な、暖色と寒色のハーモーニーが気にいっています。灰緑の葉も良いと思います。

荒俣宏なんかこわくない

日本では博物学研究の第一人者のようによく言われていますが、個人的には、彼の作品もしくは言動に少し馴染めない、というより違和感を感じます。古書の好きな人は澁澤龍彦の数々の著書に親しんだ人も多くいると思いますが、同時に両氏のファンというのは余り多くないのではないでしょうか? どちらも基本的には蘊蓄を並べているのですが、荒俣氏の言質は澁澤氏に比べて、信憑性がやや低いような気がします。確かに、この方のエピソード読んで、すごいな、とは思うのですが、ところどころで、ぼろが出たのを目の当たりにしたことがありました。

朝日新聞の「どらく編集委員通信」というコーナーがあります。かの荒俣氏のコラムもここで読めるのですが、千輪菊について書いたのがありました。まあ内容は、辺り触りのないもので、特記する必要のないものだと思いましたが、こんなことが書いてありました。

「大作り花壇は、伝統的な上屋に飾られていた。野外の花壇ではなく、鉢植えが室内に置かれている。見物客が野外にいて、菊は屋根の下だ。こういう花の見せかたは、日本だけではないだろうか。私はただただ感心しながら、大作りの菊を見てまわった。」

花の王国という荒俣氏の著作がシリーズで平凡社から出ていますが、失礼ながら、彼は余り園芸について詳しくないらしい。イギリスに行ったことはないのですが、かの有名なチェルシーフラワーショーでは "見物客が野外にいて"、"鉢植えが室内に置かれている""見せかたは"、そんなに珍しいものではないと思います。

あと、彼のブログで、オーデュボン の版画についてこんなことも書いてありました。

「この前のテレビ収録のとき、たまたま、アメリカの田舎のオークションで落札したオーデュボン『アメリカの鳥』バラ物が、20kgもあるでっかい木箱にはいって到着した。航空便なので運賃と関税だけでもすごい金額になってしまいます。そのときちょうど、自宅で撮影やってたので、この鳥図鑑は特別出演となりました。でも、日本の人にはオーデュボンといってもなじみがないと思うけど。

オーデュボンは19世紀アメリカの「立志伝」中の人物です。なんと、北アメリカ産の鳥をぜんぶ実物大に描いた図鑑を刊行しようと夢見た人だ。でも、もともとフランス人だからアメリカに基盤がなかった。でも、奥さんの献身的な協力で夢の実現にまい進した。ヨーロッパのお金持ちのナチュラリストから予約をとるためにパリに乗り込み、デイビー・クロッケットみたいなカウボーイスタイルで講演してまわったそうだ。たくましくて野生的なので、サロンの花形になったらしい。でも、せっかく描きためた原画がネズミにかじられてしまう不運に見舞われた。オーデュボンはあきらめず、また原画を書き直して図鑑を完成させたという。

ペリーが江戸へやってきたとき、お土産に持ってきたアメリカ文明の記念品のひとつにも、この図鑑がふくまれていた。そのせいかどうかわからないが、明治時代にいちはやく出た文部省の教育錦絵の「西国立志伝」編には、なんと、オーデュボンも出てくる! ネズミにかじられた原画を発見して嘆いている場面だ。すごいものである。昔は博物学者は尊敬されたんだ。

じつは、某大学のために古今の有名な図鑑を集める大仕事の真っ最中なのだ。代表的な博物図鑑を全部そろえて目玉資料とする予定なのだが、とはいえ、まるまる完全そろいを収集すると、オーデュボンだけでもオークション価格で軽く10億円になってしまう。でも、世界で一番高価なこの図鑑をいれないと資料集成にならないので、こっちも意地にかけて入手しようとがんばった。そしてこのたび、オーデュボン実物のバラ物を二点、競り落とすことに成功したわけです。

しかし、こういう人気作品を安く落とすのは至難中の至難だった。だいいち、アメリカではオーデュボンというと本物を客間に飾ることが一家のステータスになってるほど、国民に愛されてる図鑑なのだ。おまけにバラでも一枚数十万円から一千万円もする。落札することすら命がけの仕事だったが、運よく、落ちた!」

少し引用が長くなりましたが、蘊蓄にまみれまくったかなり癖のある文章です。「もともとフランス人」とありますが、西インド諸島出身で、出自は父がフランス人で母はスペイン系混血人だったそうです。母と4才のとき死別したために、父といっしょに、フランスに渡り、その後18の時にアメリカに渡りました。"北アメリカ産の鳥をぜんぶ実物大に描いた図鑑を刊行しようと夢見" 始めたのは、35才のときですから、アメリカに基盤が全くなかったはずはないし、反対に、フランスにあったとも言えないのではないでしょうか。

それに、「おまけにバラでも一枚数十万円から一千万円もする。落札することすら命がけの仕事だったが、運よく、落ちた!」とありますが、これはいわゆるHavell Double Elephant Folio版のものであって、それ以外のエディションはそこまで高くありません。例えば、初版の八切り版のものを$40で落札したことがありますし、最近の物になりますが、アムステルダム版のものならばオリジナルのものと同サイズのものが$50以下で落札できたりします。アムステルダム版というのは早い話がオフセットの複製品のような物ですが。こうしてみると、某大学のためとは言え、好きで集めているというより、成金の骨董趣味が文章から滲んでくるような気がするのですが、これは、単に自分の性格が悪いからでしょうか? 

「落札することすら命がけの仕事だったが」というのも解せません。アメリカの田舎のオークションで落札することのどこが命がけなのでしょうか? しつこく言わせてもらうと、「でも、日本の人にはオーデュボンといってもなじみがないと思うけど。」というのもさりげなく嫌みです。個人的には、荒俣宏崇拝者というのが理解ができません。結論というほどのものではないのですが、荒俣宏なんか恐くない。顔はある意味で恐いな、とおもうけど。

Monday, January 14, 2008

高いぞ、○ルコ!

以前に、日本でどれくらいパンクラース・ベッサのことが知られているかを調べようとして、グーグルで検索したことがあるのですが、この○ルコの展示会の記事の中で、ベッサが紹介されていました。結構評判が高いのか、その後もちょくちょくと博物画古書展とやらを開催しているようです。金の書き入れ時、というわけなのでしょうか? 

ホームページで薬草植物誌の著者がヨハン・ゾーン(Johannes Zorn)と表記してありますが、どこかで、ツォーンと正しい、と読んだことがあります。どちらが正しいのかは今のところ不明です。ただ、以前の展示会の紹介記事は少し首を傾げたくなるようなことが書いてあったような気がするので、鵜呑みにするのは危険でしょう。まあ、当ブログも含めて、どこのホームページも変わりはないのですが。

ああすごいなあ、というか商魂逞しい、と思うのは販売価格ですね。ボタニカル・アート(植物細密画)の傑作の販売価格が3,000~1,500,000円だそうですが、ベンジャミン・モーンド の「ボタニスト」だとか、ウィリアム・ウッドヴィルの「メディカル・ボタニー」、ヨハン・ゾーン(ツォーン?)の「薬用植物誌」やジョン・リンデンの「イルーストラシオン・オーティコール」からの植物版画なんて、うまくすればeBayで10ドル以下で落札できますからね。所謂捨て板でしたが、実際、「イルーストラシオン・オーティコール」のプリントを$3.00で落したことがあります。この面子で1,500,000円もするような物は見えないのですけれども。ベスラーの初版にしても正値で$10,000をこえるのは余りありませんし。ぼったくりもいいところ、と思うのですが、飽くまでも、部外者の個人的な感想です(笑)。

ルドゥーテのプリントが一枚ありますけれども、「薔薇六十花選」ならともかく「60種のバラの選択」 て日本語が少し変、じゃないでしょうか。ググってみたところ、同じ書名で同じプリントを売っている方を発見しました。どうやら以前のベッサの高いプリントを売っていた方が、この展示会に出品しているようです。やれやれ。

カーティス・ボタニカルマガジン I


気軽/手軽に楽しめるという植物版画を紹介しようとしてこのブログを始めたのですが、個人的にお薦めしたいのは、「カーティス・ボタニカルマガジン」のプリントです。何もルドゥーテやベスラーのお高いのがボタニカルプリントの全て、などということは勿論無くて、それよりも遥かに廉価なカーティスのプリントにも優れたものが沢山あります。実際、通し番号で1万以上の植物版画が「カーティス・ボタニカルマガジン」に掲載されています。そのなかでも、花色が派手なものは人気が高く、特に初刷の物は割合に高値ですが、その反面、白色や緑色の地味なもの(捨て板)は原画が優れていても、驚くほどの安値で落札することができます。ここで紹介するのは、eBayで$3.99で落札したもの。原画はシデナム・エドワーズ。一般に、蘭の板は高価なものが多いですが、気長に探せば、時々こういう掘り出し物(?)に当たることがあります。


最近、アメリカでは斑入りの蘭が流行っていますが、ここで描かれているのはSarcoglottis pictaで、これの近縁種、S. speciosusStenorrhynchos speciosumの交配種、Stenosarcos VanguardなどというのもHoosier Orchid Companyから登録されています。以前この蘭園を訪問したことがあるのですが、何が原因かかなり失礼な扱いをされたのを覚えています。趣味家に毛が生えたような蘭屋のくせに。まあ、金が無さそうな格好をしていたせいでしょう(笑)。